職人の住む町
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新木場の海沿いに親方の仕事場がある。江戸木挽き最後の一人であるが、若いお弟子さんがひとりいて、横で目立てなどをしていた。穏やかな光の中で話をした。大木を引いていたが既に一週間ということであった。大木を前にしてどう切るのか。どうすれば杢目が綺麗に出るのかが重要な仕事という。木挽き職人の腕の見せ所である。この見極めで木の価値が変わり、ものによっては数百万の値段の違いがでる。
大木をクレーンで持ち上げ、向きを変え乍ら一週間睨み付けることもある。最近の貯木場は海水で今一つ良くないという。昔は真水が混じる事で虫や貝などの付着を防ぎ、木が守られたという。穏やかな日ざしの時は良いが暑い日などは大変であろうと思う。高齢ながら真っ黒に日焼けし逞しい親方であった。

  19才で義兄の親方に弟子入りしました。
  大鋸で切るということと製材機で切ることの違いがあります。製材は無駄が多くなり銘木等は品質も落ちてしまいます。鋸の回転から杢目の油を溶かし木の艶までダメにします。
大切な木で厚さ4mの板を何枚も取ったことがあります。木の杢目を原木から読むことも大切です。木の皮の付き方や、叩いてみてその音等から杢目を判断していきます。
最近こなした鋸挽きの難しい仕事は、柱の4面を90度ねじった柱を挽く仕事です。しかも挽いたねじれた柱の表面はささくれずに滑らかに大鋸で挽かなくてなりません。周りにいた人達もびっくりしていました。それと鋸の手入れ、研ぎも技として大切です。切る場所に応じて研ぎの角度なども変えています。
 
  木の心を読む事が大切です。お互いに会話していきます。最も良い形で世に送りだしていく事が私の仕事です。木も人間と同じで苦労した木に味があります。木も活きていて繊細です。大欅に鋸を入れたら締め付けられて動かない。そこでお酒をまいて語りかけてお祈りしたら動きました。
  私は丸太を見てどこの産地かも分ります。又全国から頼まれ木を見に行って、木挽きもやって来ます。ともかく木の分らない人が増えてきました。学ぶ事が多いです。これは何をやっても、又どこのお弟子も同じです。ともかく積極的に頑張るしかありません。

 

職人名 林以一(はやし いいち)
雅号又は銘  
生年月日 昭和4年10月10日
職種(種) 木挽き
作品(アイテム) 私の場合、作品はです。銘木で高価なものですから、鋸刃の厚味だけで切れる事は、チェンソーで切るのと比べ、板何枚も余分にとれることになり、価格にして百万単位で変わって来ます。その他、注文によっては変型の柱やねじれた柱等を引く場合もあり、これを切り出す事が私の仕事であり作品です。
技数(積)
次代、素人から始めて手伝えるような状態になるまでの期間
人によって異なります。水平に引く技だけてはなく様々な要求が出て来ます。そして、材質や木のどの部分を切るのか、また一本ずつ形の違う原木をどうすれば無駄なく使いきれるのか、そして的確な鋸の刃の研ぎをどうすればよいのか、切った面を美しく仕上げる事も考える。など覚えなくてはならない事、新たな挑戦の連続です。やる気が大きく左右します。
技の種類や工程
丸太から切り出す時に杢目を読む技、鋸切りを水平に入れる技、鋸の研ぎによる刃進みの調整など自然相手の読みは技の種類というより微妙な感覚の積み重ね、体験以外にありません。更に一人で引く場合と二人で向かい合って引く場合の違いなどもあります。
現在の立場(役) 生涯現役
次代 他  


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