根付創世記のように一点物を専門に作る形を継承し “現代根付”という括りで進化させ活動する職人がいます。この代表格の一人が桜井英之親方です。日本の根付彫刻の大会における審査、あるいは各国で行われる根付大会に招待され参加したりします。大英博物館での実技指導も美洲親方と共に依頼され、多くのファンを集めメデイアに乗るなど話題となりました。作風は、伝統の根付を強く継承し、日本の様々な伝統な加工技を加える技法です。象牙彫刻、木材彫刻、金属加工、象嵌、漆、彫金など多彩な技を活かし、法隆寺の宝物殿等にある刀子の象牙鞘に見られる撥鏤(ばちる)という象牙の彩色技法もあって、見応えのある美しい根付をご覧頂けます。多彩な技の中に独自の世界を確立している所以であります。根付と言う小さな彫刻ゆえに、互いの自己表現を尊重しながらも、作風を張り合う面白さも根付の特徴です。今回のご紹介は、日本の独自の文化として発展してきた素晴らしい根付の世界、今や世界的になり、本場日本のお家芸としてその頂点にいる親方を掲載できたことは、正に日本一の根付展示館の出現であります。 それと職人にはいくつかの形があります。例えば、江戸の根付最盛期から近年まで、同種のものを複数作れる職人がいます。英之氏の兄、桜井家の党首、広晴親方はその代表格で、それも職人の生き方、両面をお見せ出来る事で非常に充実し満足しております。
根付とは、サイフや印籠等を落とさないように固定する小道具です。紐を付け、先に小さな3cm程度の玉状のものを付けます。 この玉の事です。使い方は帯下から入れて根付を上に出しますが、この単純な仕掛けで、盗まれたり落としたりを防ぐのです。丸い玉には 360度彫刻を施しますが、これが江戸時代に始まった根付の彫りの特徴です。根付が開発された経緯ですが、日常使っている持ち物や小物、 例えば、火打石等を入れる提げ袋を持ち歩く場合、着物には納める場所がないのです。そこで吊るす方法を考えました。当初は大陸から 伝わった僧侶の袈裟を止める輪をヒントにした“帯ぐるま”。あるいは中国の印鑑等には穴が開いており、こうしたものが“ヒントになった”と 言う人もいます。瓢箪や竹の節、クルミ等も同じように使われていました。立体彫刻表現“形彫り根付”の登場は 1700年代初期です。1781年刊行の「装剣奇賞」(大阪の商人 稲葉新左衛門が刀装具を紹介した一大目録)に根付の項があり、当時の名人作家が 記されています。この書を境に前期を古典根付と私は考えます。“根付とは何か”といった試行錯誤が様々な形で模索し、その面白さや創意工夫 ゆえに海外の人達を感動させ“the netsuke”として注目されているのです。作家の姿勢と創造性に溢れ、根付彫刻の基本であり、原点、故郷です。 技術的には後の時代に劣っていますが“自由な力”と心意気、意欲、発想、多彩さに感銘を受けるのです。この試行錯誤に学んでこそ “根付とは何か”の答えが出ると思います。歴史から教えられるのはどの分野も同じです。文化が育つ経緯、学ぶと言う経緯が重要であります。 “作家の姿勢や努力”その全てが根付の歴史であり、私の原点であると思っています。
材料から完成まで 各種素材 象牙、木材、金属、鼈甲 テーマ 人物・花・森羅万象