錫というと、ロクロ作業のくり物のようなイメージをもっている方も多いと思う。実際には金属を溶かして流し込む作業から始め、器の絵を全て一つ一つ手で描いていく作業、その絵柄が浮き出るように酸洗いで溶かす作業、仕上げまで全て親方の手にかかって完成していく。鋳型からロクロまで全てが工夫の積み重ねの作業である。道具を作る職人がいなくなったこともあるが、より納得の出来る仕事をしたい為に智恵を絞るしかないということでもある。溶けている錫を見て、次に完成された作品を見る、、、このギャップに技と言う物の凄さを感じる。どの職人もそうであるが、実に簡単に当たり前のように手が動き、見ている者に自分も出来るのではないかと思わせるほど無駄がなく動く。最近の力の無い作家のように、常に自己を演出しながら作品を語るのとは大違いである。腕が語り、腕が自然に動き、腕が考える。語り口も実に自然でさらりとしているのも、こうした実績の裏付けがあってのことと思った。一人の代表的な本物の職人と作品を見た。
※ 錫について、ひとつ付け加えておきたい。錫が体に悪いと思っている人がいるようだが、それは、環境ホルモンの有機スズであり、この錫とは全くの別物である。
■ 歴史
1200年から1300年前、飛鳥、奈良時代に中国から伝えられた。 |