櫛の場合、出来が良いとか丁寧であるとかは、価格面と比例します。黄楊櫛のプロであれば,仕上げの早さなど職人個人の問題は別にして、それなりの櫛は対応できます。私の場合、職人としての今後を考えており、黄楊の産地としての考え方です。
例えば、安い飲み屋に言き、マグロの味に文句をいう人がいます。状況判断が出来ないのは粋ではありません。この場合適正価格の商品で当たり前です。価格を高くすればそれなりに良いものは出せます。これを一つ頭の中に入れてください。もう一つのは、水揚げをする港の中にある飲み屋の味と安さです。
これも考えて下さい。私の櫛に対する姿勢ですが、黄楊の木の産地におり、その有利性を考えれば他とはかなり違いがあります。すなわち良いマグロの水揚げ港の中にいる訳です。当然、高価な形で売るより新鮮で多くの人たちに喜んで頂くことが重要です。
櫛と言うものは日常の道具です。そして日々の環境の中で育ったものです。江戸時代のように髪を飾る櫛はあまりいらなくなり、もはや美術品ではありません。今度は髪自体の環境から考えても、昔の空気の清浄感と比べ、今の空気は汚れておりその意味では比べ物になりません。従って、昔は長い髪でも汚れにくかったので、頻繁には洗う必要ありません。梳櫛で落として充分対応できたのです。今は毎日、あるいは一日おき程度に髪を洗わなければ落ち着きません。結果、理美容の世界の発展は目覚しく、シャンプーなども素晴らしいものがあります。現代は細かい梳き櫛で汚れを取るといった目的はなくなりました。細かい御殿櫛などの梳櫛類は、ゴミ、フケ、そしてダニやシラミなどを取る意味で細かい歯でした。当然、人様の前で使う櫛ではありません。従って、この点を考え合わせ今の時代の“日常的な櫛とは何か”を考えました。不要な手間をカットし、価格を考え日常に使う最高の道具としました。高級なイメージは不要です。それでも、名工会に櫛として見せるのは、技を見せる意味も多少感じますから、特別な手間と仕様で紹介していくつもりです。
以上が私の櫛の技を構成している考え方であります。
過去の受賞や作品
私のブラシが鹿児島の特産品の部門で市長賞を頂いたことがあり、これが認められたような結果となり嬉しかったことです。道具であり展覧会などは、もとより縁がありません。
それと皇太子様が鹿児島へお寄り頂いたことがあります。当店にお立ち寄り頂き、黄楊櫛をお求め頂きました。
自己作品の特徴
黄楊の良い材料があり、これを活かした日常の道具として櫛を作っています。もう一つ、先に書いてしまいましたが私は時代の変化に合わせ職人の伝統をここに活かし、変わって行くことを考えました。ブラシですが,それを拵える櫛の職人がいても良いと思いました。
興味を持ち始めた頃は、参考にするブラシの手本がありません。自分なりの試みをいろいろとします。黄楊のピンを単に埋め込んだブラシから始りました。これは梳かす時にかなりの力がいる為に失敗でした。理由は、一般のブラシを考えて下さい。硬い豚毛や樹脂製で出来ており、自在にたわむのです。その面に沿って髪がすべります。力が分散し、梳かす時の抵抗が少なくなると言うわけです。黄楊のピンは歪まずに髪が揃って、その抵抗をそのまま受けてしまったのです。この滑りがヒントとなり、ピンの太さを変化させ微妙に髪をそれに添って流し多面に力を分散させるようにしました。髪にやさしいブラシの完成です。この力の問題から、左手の人のブラシに加わる力の方向なども必然的にわかりました。
今も当時の癖が付いており、思うとすぐに試みます。
櫛のように、携帯用の小さいブラシも用意しました。大切なポイントですが、黄楊櫛は一生、あるいは代々使えるものであり子供の頃から聞かされていました。ブラシを作る上でもこれを肝に銘じています。 そこで、折りたたみのブラシですが、この要求があったとき製作はうまく作れました。しかしたたむ部分と、代々使えると言う言葉が気になり、結局は納得できずにやめました。いろいろあった技に対する葛藤ですが、私の姿勢を見て頂くことが、私の商品の特徴を掴んで頂けると思い説明させて頂きました。 |